文章読本から得た教訓
谷崎や三島など著名な作家のあらわしたものを含め、数十冊の文章読本を私は読んだはずだ。何を心がければうまい文章が書けるのか知りたかったのだ。
しかしながら、私にとって役に立っているのは、無名の人の手になる新書に書かれていた、ある教訓ひとつだけである。大作家の教える心構えなど、凡人である私には実践できなかった。無名氏の教訓は、はるかに実践的で、すぐに効果が出る。
その教訓とは、読点を打たなくても意味の通る文章を書けというものだ。
例を挙げてみる。
「渡辺刑事は血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。」
Amazon.co.jp: 日本語の作文技術 (朝日文庫)のjohnさんのレビュー
これでは血まみれになったのは、刑事なのか賊なのかがわからない。
次のように点を打つとどうなるか。
「渡辺刑事は血まみれになって、逃げ出した賊を追いかけた。」
これでは渡辺刑事が血まみれになってしまう。
正しくは、
「渡辺刑事は、血まみれになって逃げ出した賊を追いかけた。」
これは、読点を打たなければ意味の通らない文章である。
くだんの教訓に従えば:
「血まみれになって逃げ出した賊を渡辺刑事は追いかけた。」
となる。こちらのほうが読みやすい。これでも「血まみれになって」が「渡辺刑事」にかかるのが気になるなら:
「逃げ出した血まみれの賊を渡辺刑事は追いかけた。」
でいい。誤解の余地はない。
新書の著者名やタイトルを覚えていないのが残念だ。